「糖尿病と言われたけれど、コレステロールの薬まで飲む必要があるの?」
「血糖値だけ気をつけていれば、悪玉コレステロールは少し高いくらいでも大丈夫では?」
外来で糖尿病の診療をしていると、患者さんからこのようなご質問をよくいただきます。毎日飲むお薬が増えるのは誰にとっても抵抗があるものですし、「糖尿病の内科」に来ているのにコレステロールの指摘をされると、少し意外に思われるかもしれません。
しかし、結論から申し上げますと、「糖尿病をお持ちの方は、そうでない方以上に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)をしっかり下げるべき」です。
なぜ血糖値だけでなくコレステロールまで厳しく管理しなければならないのか。心筋梗塞や脳梗塞の予防にとどまらず、近年の「認知症予防」にも重要であることが分かっております。
1. なぜ「糖尿病+高コレステロール」は危険なのか?
糖尿病と悪玉(LDL)コレステロールは、いわば「血管を傷つける最悪のタッグ」です。動脈硬化が進むメカニズムを、道路の舗装に例えてみましょう。
- 高血糖: 血管の内壁を傷つけ、道路に無数の「ひび割れ」や「穴」を作る
- 悪玉コレステロール(LDL-C): 道路のひび割れに入り込んで固まり、コブ(プラーク)を作る「土砂やゴミ」
高血糖によって血管が傷つき、さらに炎症を起こしている状態のところへ、血液中の悪玉コレステロールが流れ込んでくると、通常よりも格段に血管壁の中へ入り込みやすくなります。その結果、血管の内側がどんどん狭く・硬くなり、動脈硬化が一気に加速してしまうのです。
そのため、糖尿病がある方は、糖尿病がない方と同じコレステロール値であっても、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞を起こすリスクが2〜3倍以上高くなることが分かっています。
日本動脈硬化学会のガイドラインでも、糖尿病をお持ちの方は「高リスク群」と位置づけられており、一般の方よりも厳しい目標値が設定されています。
- 心筋梗塞などの既往がない方でも:100〜120 mg/dL 未満(他の危険因子がある場合は 100 mg/dL 未満)
- すでに心疾患がある方、または極めて高リスクな方:70 mg/dL 未満
2. 最新研究で判明:コレステロール低下薬(スタチン)は「認知症リスク」も下げる?
コレステロールを下げる代表的なお薬に「スタチン」があります。世界中で長年使われており、心筋梗塞や脳卒中の予防効果が確立されている非常に安全性の高いお薬です。
そして近年、このスタチンに関して、脳の健康にとっても非常に心強い最新の研究成果が世界的医学誌『The Lancet Regional Health – Europe』などで報告されました。
◆ デンマークの大規模全国調査(約13万人の糖尿病患者さんを追跡)
新たに2型糖尿病と診断された40歳以上の成人 約13万2,500人を対象に行われた大規模な追跡研究において、非常に興味深い結果が明らかになりました。
- 糖尿病と診断されて「1年以内」にスタチンを開始した群: お薬を飲まなかった群に比べ、10年後の認知症リスクが約15%有意に低下していた。
- 診断から1〜5年遅れて開始した群: 認知症リスクは約10%の低下にとどまった。
- 特に、動脈硬化や細小血管障害が関係する「脳血管性認知症」の発症を有意に抑制していた。
つまり、「糖尿病と診断された早い段階からコレステロールをしっかり下げておくことが、心臓や大きな血管だけでなく、将来の脳と認知機能(認知症)を守ることにつながる」ということが示されたのです。
◆ ランセット認知症委員会でも「中年期の高LDL」が危険因子に追加
世界的な認知症研究の権威であるランセット委員会(The Lancet Commission)でも、中年期からの「高LDLコレステロール」が認知症の修正可能な重大リスク因子として正式に位置づけられました。コレステロール管理は、もはや「血管の健康」だけでなく「頭の健康寿命」を伸ばすための必須条件となっています。
3. 「食事や運動」だけで下げるのは難しい?
「薬に頼らず、食事と運動だけでなんとかしたい」とお考えになる患者さんも多くいらっしゃいます。もちろん、バランスの良い食事や適度な有酸素運動、禁煙、節酒は治療の基本であり、欠かすことはできません。
しかし、体内のコレステロールの約7〜8割は「肝臓」で合成されており、食事から吸収される割合は2〜3割程度です。食事療法を徹底しても、コレステロール値が下がる幅には限界があるケースが少なくありません。
特に糖尿病がある場合、血管を守るためには「もう少し様子を見よう」と放置するのではなく、必要なタイミングでお薬(スタチンなど)の力を借りて、早期に確実に数値を目標値までコントロールすることが、10年後・20年後の健康を大きく左右します。
4. まとめ:将来の自分と家族のために、いまできること
- 糖尿病の方は、血管が傷つきやすいため、悪玉コレステロール(LDL-C)を一般の人よりも低く保つ必要がある。
- 最新の医学研究により、糖尿病の早期からコレステロールを適切に下げることで、将来の認知症(特に血管性認知症)のリスクを減らせる可能性が示されている。
- 生活習慣の改善とともに、必要に応じてお薬を活用し、早めに血管の負担をリセットすることが最善の予防策になる。
健診で「血糖値」だけでなく「コレステロール」も指摘されている方、あるいはすでに糖尿病治療中でお薬の選択に迷われている方は、決して先延ばしにせず、ぜひ主治医にご相談ください。
当院は八女市黒木町で診療しており、糖尿病や脂質異常症を専門に治療しておりますので困っている方はいつでも相談下さい。