バセドウ病と診断され、これからお薬での治療を始める方や、現在すでにお薬を服用されている方の中には、「この薬はいつまで飲み続けるのだろう?」「副作用が怖いな」と不安を感じている方も少なくないと思います。
日本におけるバセドウ病の薬物治療では、主に「メルカゾール」と「プロパジール」という2つのお薬が使われます。これらは甲状腺ホルモンの作りすぎを抑える非常に優れたお薬ですが、安全に、そして確実に治療を進めるためには、いくつか知っておいていただきたい注意点があります。
今回は、これら2つの治療薬の特徴や妊娠との関係、注意すべき副作用、そしてこの治療が持つ「完治への可能性」について解説します。
1. 2つの治療薬の使い分けと「妊娠」への配慮
現在、日本国内で一般的に使用できるバセドウ病の抗甲状腺薬は、先述の通り「メルカゾール」と「プロパジール」の2種類のみです。これらは患者様の状態やライフステージに合わせて使い分けられますが、特に重要なのが「妊娠との関係」です。
従来の基本的な流れ
従来の標準的な治療では、「妊娠初期(お腹の赤ちゃんの臓器が作られる大切な時期)にはプロパジールを使用し、それ以外の時期や通常の治療ではメルカゾールを第一選択とする」という流れが一般的でした。これは、妊娠初期にメルカゾールを服用すると、ごく稀に赤ちゃんの頭皮の欠損や消化管の奇形のリスクが上がると報告されていたためです。
近年の新しい報告と見解
しかし近年の医療研究においては、「メルカゾールであっても、適切な用量管理のもとであれば妊娠初期でも十分に安全に使用できる」というデータや報告が蓄積されてきています。海外では妊娠初期でもメルカゾールを使用している例もあり、将来的には患者さんによっては妊娠初期でもメルカゾールを使用するようになるかもしれません。
※大切なポイント:将来的に妊娠を希望されている方や、治療中に妊娠が分かった方は、決して自己判断でお薬を中断しないでください。バセドウ病のコントロールが乱れることの方が妊娠に大きな影響を与えます。
2. 正しく知っておきたい、注意すべき副作用
メルカゾールとプロパジールは非常に有用な薬ですが、服用にあたっては「重大な副作用」の兆候を知っておくことが大切です。これらは頻度こそ低いものの、万が一のリスクを避けるために医師が最も警戒するポイントです。
① 無顆粒球症(むかりゅうきゅうしょう)
服用を開始してからの数ヶ月間(特に最初の2〜3ヶ月以内)に起こることがある、最も注意すべき副作用です。血液中の白血球の一種である「顆粒球」が急激に減少し、体の免疫力が落ちてしまいます。
【主な初期症状】 突然の38度以上の高熱、強い喉の痛み
お薬を飲み始めてからこのような症状が出た場合は、風邪だと思い込まずに直ちに薬の服用を中止し、すぐに当院までご連絡いただくか、夜間であれば救急外来を受診してください。
② 肝障害(特にプロパジールは注意)
どちらのお薬でも肝機能の数値が上昇することがありますが、特にプロパジールを使用する場合は、重症化しやすい肝障害に注意が必要です。自覚症状としては、体のだるさ、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)などが挙げられます。
③ ANCA関連血管炎(あんかかんれんけっかんえん)
数年単位の長期にわたってお薬を服用している場合に、ごく稀に発生することがある合併症です。体の中の細い血管に炎症が起き、発熱や関節の痛み、血尿、あるいは肺や腎臓に影響が出ることがあります。こちらも定期的な血液検査や尿検査でチェックしていくことが可能です。
3. 「しっかり検査をしていれば大丈夫」そして完治へ
ここまで少し怖い副作用のお話をしてしまいましたが、一番お伝えしたいのは「過度に怖がる必要は全くない」ということです。
これらの副作用は、内服を開始した初期や長期の節目において、病院で適切な間隔で血液検査・診察を行っていれば、万が一兆候が現れても早期に発見し、適切に対処することができます。私たちが定期的な通院と検査をお願いしているのは、まさにこの安全性を担保するためなのです。
そして何より、メルカゾールとプロパジールという2つのお薬は、正しく飲み続けることでバセドウ病を「完治(お薬を完全にやめても甲状腺機能が正常に保たれる状態)」させる可能性を十分に秘めた、非常に有用で強力な武器です。実際に、多くの方がお薬による治療によって、病気の前と変わらない健やかな日常生活を取り戻されています。
バセドウ病の治療は、数ヶ月で終わるものではなく、年単位の長いお付き合いになることがほとんどです。だからこそ、お薬のメリットとリスクを正しく理解し、医療スタッフと足並みを揃えて進んでいくことが大切になります。
当院は八女市黒木町で診療しておりますので、不安なこと、分からないことがあれば、どんな小さなことでも診察室で遠慮なくお話しください。
関連ブログ
バセドウ病とはどんな病気??
バセドウ病の薬剤治療はいつまで続けるのか?
冨田医院 医師 岡田一樹