こんにちは。冨田医院の医師、岡田一樹です。
糖尿病の診療をしていると、しばしば考えさせられることがあります。
糖尿病の治療において大切なことは、実はそれほど複雑ではありません。食事に気を付けること、適度な運動を続けること、必要な薬を継続すること、定期的に受診すること。どれも多くの患者さんが既によくご存じです。
しかし、「何をすればよいか分かっていること」と、「実際に続けられること」の間には大きな隔たりがあります。
医師として診察をしていると、つい「こうしたほうがいいですよ」「これをやってみましょう」と助言したくなります。しかし長年診療を続ける中で、私は次第に「人は正しい知識だけでは変わらないのではないか」と感じるようになりました。
患者さんは本当に何も知らないのでしょうか
糖尿病の患者さんにお話を伺うと、多くの方は自分なりに様々な工夫をされています。
「ご飯の量を少し減らしている」
「甘い飲み物をやめてみた」
「仕事の合間に歩くようにしている」
「夜食を控えようと思っている」
このような話を聞いていると、患者さんは決して無知なのではなく、むしろ何をすればよいかを十分理解されていることが多いと感じます。
問題は知識の不足ではなく、忙しい仕事や家庭環境、長年続いた生活習慣、ストレス、疲労など、様々な現実的な要因によって実行や継続が難しくなっていることです。
だからこそ、医療者が一方的に知識を追加するだけでは十分ではありません。
患者さんが既に持っている力や経験を引き出しながら、その人自身が続けられる方法を一緒に見つけていくことが重要なのではないかと考えています。
変化を決めるのは患者さん自身
糖尿病は数日で治療が終わる病気ではありません。
何年、時には何十年にもわたって付き合っていく慢性疾患です。
そのため、医師が診察室でお話しする時間は人生全体から見ればほんのわずかです。残りのほとんどの時間は、患者さんご自身が日常生活の中で治療を続けていかなければなりません。
だからこそ重要なのは、「医師が納得する計画」ではなく、「患者さん自身が納得できる計画」です。
たとえ小さな変化であっても、自分で選び、自分で決めた行動は長続きしやすい傾向があります。
反対に、どれほど理想的な方法であっても、他人から押し付けられたものは続きにくいことがあります。
糖尿病診療では、完璧な治療計画を作ることよりも、「今の自分ならこれならできそうだ」と患者さん自身が感じられる一歩を見つけることが大切だと考えています。
動機づけ面接という考え方
心理学の分野には「動機づけ面接(Motivational Interviewing)」という面接法があります。
これは医療者が患者さんを説得したり指導したりするのではなく、対話を通して患者さん自身の中にある「変わりたい気持ち」を引き出していく方法です。
例えば、
「血糖値が高いので運動してください」
ではなく、
「これまで運動できた時期はありましたか?」
「もし血糖値が改善したら、どんな良いことがありそうですか?」
「今の生活の中で無理なくできそうなことはありますか?」
といった形で対話を進めます。
すると不思議なことに、医療者が答えを与えなくても、患者さん自身の口から変化に向けたアイデアや理由が語られることがあります。
人は他人から与えられた理由よりも、自分自身で見つけた理由によって行動しやすいからです。
「できなかったこと」より「できたこと」に目を向ける
糖尿病の診療では、血糖値や体重、検査結果など数字に目が向きがちです。
もちろんそれらは重要ですが、数字だけでは見えない努力もたくさんあります。
毎日薬を続けたこと。
受診を継続したこと。
以前より少し野菜を増やしたこと。
甘い飲み物を減らそうと意識したこと。
こうした小さな変化は、検査結果にはすぐ反映されないこともあります。しかし、長期的には非常に大切な積み重ねです。
動機づけ面接では、「なぜできなかったのか」を追及するよりも、「何ができていたのか」「どんな工夫が役立ったのか」に目を向けることを大切にします。
その積み重ねが、将来のより大きな変化につながっていくからです。
私自身もまだまだ勉強中です
動機づけ面接の考え方を学ぶほど、「患者さんのためを思うあまり、つい話しすぎてしまう自分」に気付かされます。
医師として知識を伝えることは大切です。しかし同時に、患者さん自身の考えや思いを丁寧に聴くことも同じくらい重要だと感じています。
診察室で本当に必要なのは、医師が正しい答えを与えることではなく、患者さんが自分自身の答えを見つける手助けをすることなのかもしれません。
当院は八女市黒木町で診療しており、糖尿病の診療を通じて、単に検査結果を改善するだけでなく、患者さんご自身が納得しながら治療を続けられる医療を目指しています。
これからも対話を大切にしながら、一人ひとりの患者さんに寄り添える診療を続けていきたいと思います。
冨田医院 医師 岡田一樹