「甲状腺の病気があると、昆布やワカメなどの海藻を食べてはいけないのですか?」
診察室で患者さんから非常によくいただくご質問の一つです。日本の食生活において、海藻は出汁(だし)や味噌汁、和食のベースとして欠かせない食材です。「好きな海藻を一切食べてはいけないのでは…」と不安に思われている方も少なくありません。
結論:機能低下症の方も、機能亢進症の方も、大量の量を継続して取り続けなければ基本的に大丈夫です。定期的に採血をしながら、常識的な範囲で楽しむことができます。
今回は、甲状腺疾患(機能低下症・亢進症)における海藻との正しい付き合い方や、大量摂取した場合のリスクについて医学的に解説します。
なぜ「甲状腺の病気=海藻NG」と言われるのか?
海藻に豊富に含まれる「ヨウ素(ヨード)」というミネラルが関係しています。
ヨウ素は、甲状腺が「甲状腺ホルモン」を作るための必須の原材料です。自動車で例えるなら「ガソリン」のようなものです。そのため、ヨウ素の摂り過ぎは甲状腺の働きに大きな影響を与えることがあります。
特に日本人は、世界的に見ても昆布出汁や海苔、ワカメなどを通じて日常的にヨウ素を十分に摂取しやすい環境にあります。
1. 甲状腺機能低下症の方:大量摂取でさらなる機能低下に
橋本病(慢性甲状腺炎)などに代表される「甲状腺機能低下症」の方も、日常の食事に含まれる常識的な範囲の量であれば海藻を食べても問題ありません。
大量に取り続けるとどうなる?
しかし、昆布茶や昆布出汁などを毎日大量に取り続けてしまうと、甲状腺は一時的にホルモンの合成をストップさせてしまう生理現象(ウォルフ・チャイコフ効果)を起こします。
もともと働きの鈍っている甲状腺に過剰なヨウ素が入ると、さらに甲状腺機能が低下してしまい、むくみや倦怠感などの症状が悪化する原因になります。
2. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)の方:大量摂取で治療が長引く恐れ
「甲状腺機能亢進症」の方も同様に、極端に大量の量を摂取し続けない限り、普通の食事で海藻を食べる分には基本的に大丈夫です。
大量に取り続けるとどうなる?
ただし、バセドウ病などの治療中にヨウ素(原材料)を大量に取り続けてしまうと、甲状腺ホルモンが過剰に作られやすくなり、薬(抗甲状腺薬)の効きが悪くなったり、バセドウ病がなかなか治りにくくなったりすることがあります。
そのため、亢進症の方であっても「日常の食事レベルなら大丈夫だが、過剰な大量摂取は避ける」ことが大切です。
3. 「一過性甲状腺機能亢進症」の方はその後の低下期に注意
亢進症の中でも、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎による「一過性甲状腺機能亢進症」の場合は少し注意が必要です。
なぜ注意が必要なのか?
この病気は一時的にホルモンが漏れ出して「亢進状態」になりますが、その後、回復する過程で一時的に「機能低下症」へ転じる時期があります。
亢進期から低下期へ移行するタイミングでヨウ素を大量に摂取していると、低下症状が通常より強く出たり長引いたりすることがあるため、病態が変化している時期は特に摂り過ぎに注意が必要です。
常識的な範囲の量なら、採血しながら食べられます
「甲状腺の病気になったら海藻を一切断たなければいけない」わけではありません。
機能低下症であっても、機能亢進症であっても、毎日のように濃い昆布出汁を飲み干したり、根昆布茶を常用したりするような「極端な大量摂取」でなければ大丈夫です。
食事を楽しむためのポイント
- 「常識的な量」にとどめる: お味噌汁のワカメや出汁、寿司の海苔など、普段の料理で使う程度なら制限する必要はありません(ヨウ素量の非常に多い昆布の常用だけは控えましょう)。
- 定期的な採血検査を受ける: 一番大切なのは、定期的にクリニックで血液検査(FT4、TSHなど)を受け、甲状腺ホルモンの数値を確認することです。数値を見ながら主治医と相談することで、安全に食事を楽しむことができます。
おわりに
甲状腺の病気があるからといって、大好きな和食や海藻を極端に避けてストレスを溜め込む必要はありません。
「大量に取り続けない」「定期的に採血チェックを受ける」という原則を守っていれば、安心して食事を摂っていただけます。
ご自身の甲状腺の数値や、具体的な食事内容について気になることがございましたら、ぜひ当院の診察でお気軽にご相談ください。
冨田医院 医師 岡田一樹