こんにちは。冨田医院の医師 岡田一樹です。お酒を飲みすぎてしまったり、体調を崩してしまったりしたときに、激しく「吐いて(嘔吐して)」しまった経験はありませんか?
実は、激しい嘔吐は体に想像以上の強い負担をかけます。その結果として引き起こされる代表的な病気に、「マロリー・ワイス症候群」と「特発性食道破裂」があります。どちらも「強く嘔吐すること」がきっかけで起こる病気ですが、その緊急度や重症度、治療法には大きな違いがあります。
今回は、この2つの病気について、患者さまに解説します。「ただの吐き気」と侮らず、万が一のときに正しい判断ができるよう、ぜひ知識を深めておきましょう。
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マロリー・ワイス症候群とは?(粘膜が裂けて出血する病気)
マロリー・ワイス症候群は、激しい嘔吐を繰り返すことによって、胃と食道のつなぎ目付近(噴門部)の粘膜が縦に裂け、そこから出血してしまう病気です。
原因とメカニズム
吐くときには、お腹の筋肉(腹筋)が強く収縮し、胃の中のものを押し出そうとします。このとき、胃の内部の圧力が一気に急上昇します。この急激な圧力の逃げ場がなくなることで、最も負担がかかりやすい「胃と食道の境界部分」の粘膜がペリッと裂けてしまうのです。
圧倒的に多い原因は「お酒の飲みすぎによる嘔吐」ですが、それ以外にも「つわり(妊娠悪阻)」「激しい咳込み」「重い荷物を一気に持ち上げたとき」など、腹圧が急激に高まることでも起こります。
主な症状
「最初に吐いたときは普通の吐瀉物(食べたもの)だったが、その後に何度も吐き気があって吐き直したら、真っ赤な血が混ざっていた(吐血した)」というのが典型的なパターンです。
裂けるのは「浅い粘膜の層」だけであることが多いため、基本的には強い痛みを感じないことがほとんどです。
治療と見通し(予後)
実は、マロリー・ワイス症候群による出血の約8割から9割は、特別な治療をしなくても自然に血が止まります(自然止血)。
病院を受診された場合は、胃カメラ(上部消化管内視鏡)で傷の深さや出血の状態を確認します。もし今もじわじわと出血が続いている場合は、クリップで挟んだり、薬を注射したりして、その場で内視鏡止血術を行います。出血が止まっていれば、数日は胃酸を抑えるお薬(PPIなど)を内服し、消化の良い食事を摂ることで、数日から1週間程度で傷はきれいに治ります。
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特発性食道破裂とは?(食道の壁が「貫通」する超緊急疾患)
一方で、特発性食道破裂(別名:ブールハーフェ症候群)は、同じ嘔吐がきっかけであるものの、全く次元の異なる命に関わる超緊急の病気です。
原因とメカニズム
マロリー・ワイス症候群が「粘膜の表面が裂けるだけ」であるのに対し、特発性食道破裂は食道の壁そのものが「完全に突き破れて穴が空く(穿孔する)」病気です。
吐く瞬間に、食道の下部が一気に引き伸ばされ、耐えきれなくなった食道の全層が破裂します。食道は他の消化管(胃や腸など)と違って、外側を覆う強い膜(漿膜)がないため、一度破れると一気に貫通しやすいという解剖学的な特徴があります。
主な症状
最大の特徴は、「激しい嘔吐の直後に、胸やみぞおち、背中に生じる、引き裂かれるような猛烈な激痛(胸痛・腹痛)」です。あまりの痛みに冷や汗をかき、息苦しさを訴え、パニックになることもあります。
食道が破れると、胃の中にある酸性の胃液や、食べたもの、そして雑菌が、心臓や肺を取り囲むスペース(縦隔:じゅうかく)にドッと漏れ出します。これにより、周囲が急激に化膿して炎症を起こし(縦隔炎)、高熱や呼吸困難、ショック状態に陥ります。また、漏れた空気が皮膚の下に溜まる「皮下気腫(首や胸のあたりを触るとプチプチ音がする状態)」が見られることも特徴です。
治療と見通し(予後)
自然に治ることは絶対にありません。一刻を争う外科手術(または専門的な治療)が必要になります。
破れた部分を縫い合わせ、胸の中に漏れた胃液や膿を徹底的に洗い流して外に出す(ドレナージ)手術を行います。治療が遅れれば遅れるほど、重篤な感染症(敗血症ショック)を合併し、命を落とす危険性が跳ね上がります。嘔吐後の激胸痛は、一分一秒を争う救急車の要請(119番)が必要です。
【一目でわかる】マロリー・ワイス症候群と特発性食道破裂の違い
| 比較項目 | マロリー・ワイス症候群 | 特発性食道破裂 |
|---|---|---|
| 傷の状態 | 食道や胃の「粘膜」が裂ける(表面の傷) | 食道の壁が「完全に破れて貫通」する |
| 主な症状 | 何度も吐いたあとの「吐血」 (痛みはあっても軽微) |
吐いた直後の「胸や背中の猛烈な激痛」 呼吸困難、高熱、ショック症状 |
| 緊急度 | 中〜高(医療機関の受診は必要) | 極めて高い(直ちに救急要請・手術が必要) |
| 治療法 | 多くは自然治癒 必要に応じて内視鏡での止血、薬の内服 |
緊急手術(縫合とドレナージ) |
もし「吐いたあとに異変」を感じたら、どうするべきか?
一番大切な判断基準は「痛みの有無と強さ」です。
お酒を飲んで吐いてしまい、その後に少し血が混ざる程度(マロリー・ワイス症候群の疑い)で、体調や気分に他に大きな崩れがなければ、まずは落ち着いて近くのを病院を受診してください。
しかし、「吐いた瞬間に、胸や背中、みぞおちが激しく痛み出した」「冷や汗が出て、息が苦しい」「痛みがどんどん強くなる」という場合は、特発性食道破裂の可能性が非常に高いです。これは絶対に様子を見てはいけません。すぐに救急車を呼び、一刻も早く大きな病院の救急外来を受診してください。
当院でも、お腹の急なトラブルや吐き気、消化器に関するお悩みに対して親身に対応しております。無理な飲酒を避け、体を労わっていただくのが一番ですが、万が一「おかしいな」と感じたときには、我慢せずに早めにご相談ください。