「病院の先生や栄養士さんに『痩せなさい』と言われ、食事の指導も受けた。でも、結局うまくいかない……」
そんな経験はありませんか?実は、多くの病院で行われている従来の治療法が、肥満症においては「そもそも効果が出にくい考え方」に基づいていることが、近年の研究でわかってきました。
なぜ専門家の指導を受けてもうまくいかないのか。その理由は、あなたの意志の弱さではなく、医療現場に深く根付いた「考え方の枠組み」にあります。
1. 多くの医師が陥る「医学モデル」という考え方
医療の現場には、古くから「医学モデル」という根本的な考え方があります。これは、以下のような直線的な思考です。
例えば、風邪を引いたなら「ウイルス」が原因なので、それを取り除けば治ります。骨折したなら「衝撃」が原因なので、固定して安静にすれば治ります。医師はこの「原因探し」のプロです。
そのため、肥満症の患者さんに対しても、医師は無意識にこう考えます。
「なぜこの人は太っているのか?(原因は何だ?)」
「お菓子を食べすぎているのが原因だ。なら、お菓子を止めさせれば治るはずだ」
しかし、残念ながら肥満症において、この「原因を見つけてアドバイスする」という手法は、患者さんにとってあまり有益ではないことが多いのです。
2. 「原因」がわかっても痩せられない理由
なぜ、原因を特定してアドバイスしても効果が出ないのでしょうか?それは、肥満症が単一の原因で起こるものではないからです。
肥満は、以下の要素が複雑に絡み合った「結果」に過ぎません。
- 遺伝的な体質(エネルギーを蓄えやすい)
- 環境要因(身近に高カロリーな食べ物がある、デスクワーク中心の生活)
- 生活習慣(睡眠不足、ストレス、不規則な食事)
これらが複雑に絡み合っている時、医師から「夜のアイスが原因ですね。止めましょう」と一点突破のアドバイスをされても、生活の全体像は変わりません。仮にアイスを止めた所で、1日トータルでの適切な食事の管理が出来ていなければ結局は体重が増えていきます。
つまり、医学モデルで「原因」を見つける作業は、肥満治療では有用とは言い難いのです。
3. 行動分析学が教える「行動変容モデル」への転換
では、どうすればいいのでしょうか?ここで登場するのが、行動分析学に基づいた「行動変容モデル」です。
行動変容モデルでは、「なぜ太ったか(原因)」を分析するのではなく、「今、何を変えれば減量できるか(行動)」にすべてのエネルギーを注ぎます。
行動分析学の視点では、人の行動は意志ではなく「環境」や「結果」によって決まると考えます。医師の役割は、「ダメな理由」を指摘することではなく、患者さんが「自然と行動を変えられる仕組み」を一緒に設計することに変わります。
医学モデルと行動変容モデルの違い
| 視点 | 医学モデル(従来) | 行動変容モデル(当外来) |
|---|---|---|
| 焦点 | 過去・原因(なぜ太った?) | 未来・行動(どう変える?) |
| 手法 | 禁止・指導(〇〇はダメ) | 環境調整・代替(〇〇ならできる) |
| 目的 | 原因の除去 | 習慣の再構築 |
4. 患者さんへ:自分への問いかけを変えてみましょう
この考え方の転換は、医療者だけでなく、患者さん自身にとっても非常に重要です。
もしあなたが今、「自分はなぜこんなに太ってしまったんだろう」「あの時のあの習慣が悪かったんだ」と後悔しているなら、その思考を一度ストップしてみてください。過去の原因を探しても、体重は減りません。
これからは、自分自身にこう問いかけてみてください。
「今の生活の中で、無理なく『上書き』できる行動は何だろう?」
例えば:
- 「夜の完食を止める」ではなく、「夜は甘い香りのハーブティーを飲む」に変える。
- 「運動を始める」ではなく、「スーパーの駐車場で一番遠くに車を止める」に環境を変える。
こうした「何ができるか」の積み重ねこそが、複雑に絡み合った肥満の要因を一つずつ解きほぐしていく唯一の道なのです。
まとめ:未来の「行動」を一緒にデザインしましょう
肥満症の治療が難しいのは、決してあなたの意志が弱いからではありません。従来の「医学モデル」では「なぜ太ったのか」という過去の原因探しにエネルギーを使い果たしてしまっていたからです。
当院は八女市黒木町で診療しており過去の原因を追究しすぎることはしません。私たちが大切にしているのは、行動分析学に基づいた「あなたの生活をどうデザインし直すか」という視点です。
医師の役割は、単なる「指導者」ではなく、あなたが無理なく続けられる新しい習慣を見つけるための「伴走者」であると考えています。一人で抱え込まず、まずは「今の生活の中で、一つだけ変えられること」を私たちと一緒に探してみませんか?
冨田医院
医師 岡田 一樹