せっかく辛い減量に成功して体重を落とすことができたにもかかわらず、しばらくすると元の体重にリバウンドしてしまう――。実は、このようなリバウンドが起きてしまう大きな原因の一つとして、「減量した後の体重に、本人がどうしても満足できないこと」が挙げられます。
そして、このように減量した体重にいつまでも満足できない背景には、心理学や医学の分野で「ネガティブなボディイメージ」と呼ばれる、自分の体に対する否定的な思い込みや捉え方の癖が深く関わっています。
自分の体に強い不満や不安を抱えたままだと、どんなに目標体重を達成しても心が満たされず、結果としてリバウンドの悪循環に陥りやすくなります。そのため、こうした傾向がある方は、ただ食事を減らすだけでなく、減量を続けながら同時にこの「ネガティブなボディイメージの改善」にも取り組んでいく必要があるのです。
1. 「体重が減れば満足できる」という罠とリバウンドのメカニズム
多くの方は「体重さえ減れば、自分の体に対する不満はすべて消え去るはずだ」と考えてしまいます。しかし、実際には体重が減ってもボディイメージが変わらなかったという事実は非常に多く見られます。
ボディイメージの障害(強い不満や歪み)を抱えたままだと、患者さんは焦りから過激で極端な食事制限に取り組んでしまいがちになります。しかし、こうした無理な方法は長期では絶対に続かず、リバウンドを招きます。そればかりか、健康的な状態を維持するための「体重維持のスキル」を学ぶ大きな障壁にもなってしまうのです。
ここで知っていただきたいのは、「身体的外見(実際の体重・体型)」と「ボディイメージ(自分の体をどう認識しているか)」は全く別物であるという心理教育の事実です。太っていても全然気にしていない人がいる一方で、十分に痩せていても太っていると思い込んでいる人がいるのはこのためです。
このボディイメージ改善の取り組みは、減量と相反するものではありません。減量期において、健康的な減量を続けながら同時にボディイメージの改善にも取り組んでいくことができるため、安心して進めることができます。認知行動療法(CBT)を用いることで、改善へと導く可能性のある具体的な方法が確立されています。
2. ネガティブなボディイメージを形成する「4つの認知過程」
まずは、自分のネガティブなボディイメージがどのような心理や行動の癖によって作られているのか、その認知過程(メカニズム)を把握することが大切です。主に以下の4つの要素が深く関係しています。
- 一般社会的、個人社会的プレッシャー: メディアや周囲からの「痩せていなければならない」という無言の圧力。
- 身体に対する懸念: 自分の体型や体重に、度を超えてどれほどの重要性をおいているかという偏り。
- 身体に対する回避: 自分の体が晒されるのを避ける行為。
- 体型確認: 体重やサイズを何度もチェックしてしまう行動。
これらが積み重なると、何らかの些細なきっかけにより、いつでも「太っている」と感じるようになってしまいます。
3. 認知行動療法(CBT)による具体的な取り組み
当院では、以下のステップに沿って、ネガティブなボディイメージに多角的にアプローチしていきます。
① 社会的プレッシャーへの対処
そもそも肥満には強力な遺伝的要因があるため、世間の「太っているのは自己管理不足だ」といった社会通念は、無知と偏見の結果であると言えます。歴史を見ても、社会が間違っていることは多くあります。こうしたプレッシャーに対して、ただ傷つくのではなく、「無視する」「反論する」など、あらかじめ具体的な対応を考えておく練習をします。
② 自己評価のバランスを整える(個人内での重要性を高める)
自分を評価する基準が「体型・体重」だけに偏っていると心が不安定になります。そこで、自分の価値を構成する要素をリストアップし、順位付けをして「自己評価円グラフ」を作成します。項目が多く、バランスの良い円グラフを作ることが理想です。
体型以外に何が自分の自己評価を高めそうかを考え、重要性を高めていきます。たとえば、肥満のためにあきらめてしまった趣味などを再開することも有効です。これらを宿題とし、日々の生活をしっかりモニタリングしていきます。
③ ボディイメージの具体的な表現型(行動・感情)への介入
ネガティブなボディイメージが引き起こす問題行動(表現型)にも直接取り組んでいきます。
【最優先:体型確認行為の制限】
体重測定、鏡を見る、長さの測定、触っての確認、他人との比較、他人に痩せているか聞く、といった「体型確認」は、下の「回避」や「不快感」をさらに増悪させるため、最優先で取り組みます。頻繁な体重測定はわずかな変化を否定的に解釈させ、体の好きでない部分への注目は欠点としての自覚を増大させ、非典型的な人との比較は誤解を強めてしまいます。
まずは大前提として、体重測定は週に1回、鏡を見る頻度は1日に1回、服装のチェックのみに使用するよう徹底します。その上で、確認行為をモニタリングし、「なぜその行為をしたか?」「その後の気分は?」「続けるメリットはありそうか?」を振り返ります。
【身体に関する回避の克服】
体型を隠す行為(回避)への解決策は、あえて自らを不快な状況(避けている場面)に置き、自分が予想していたよりも恐れていることは起きない、という事実を学ぶ必要があります。達成できそうな課題と具体的な行動を決め、行動上・認知上の好ましい結果を事前に予想させます。必要なステップを計画し、課題を行う前後の考えをモニタリング用紙に記録して、実際に行えたという事実も含めて結果を検証し、肯定的な面を強調していきます。
【「太っている」と感じる瞬間への対処】
「お腹が揺れる」「のろのろした感じ」などの否定的な身体状態や、不安・抑うつなどの否定的な感情、また体型確認や他人からの言葉によって強く体に意識が向けられたとき、人は「太っている」と感じてしまいます。いつその感情がピークになるかをモニタリングしてもらい、これに対して認知行動療法を応用して冷静に対応していきます。
合理的かつ健康的な体重を手に入れるために
ここに取り組む目的は、体重を愛することではなく、自己評価において体重や体型に重きを置き過ぎないようにすることです。
極端で不健康な行動は、理想の体型や体重を維持する目標を達成する援助にはならず、むしろ自信や自尊心を打ち砕く結果になりかねません。当院が重視する「自己受容」とは、あきらめのような受動的なプロセスではなく、ご自身の持つ強みを生かし、自己の定義や意味を広げて自己肯定を行う、とても能動的なプロセスです。